プレパパセミナーに行ってきた話

 このブログは生まれてくる子供に当時の記憶を残すということも大きなテーマである。

 その第一回目に相応しいかもしれない、プレパパセミナーというものに行ってきた、そんな話。

 こんなに正直に書くと、子供と嫁さんに激怒されること間違いなしだが、はっきり言ってまだ実感がない。そしてすでに30歳を軽やかに飛び越えたにもかかわらず、「立派な父親」というものになれる気もしない。そんな、気持ちを知ってか知らずか、嫁が行きたいと言ってきたのが、所謂マタニティセミナーというものだった。

 有体にゆうと、ベビー用品メーカが子育ての事前体験とアドバイスを提供する代わりに、「そんなとき、うちの商品では、、」と宣伝をするという会である。うちの嫁さんは里帰り出産をする予定なので、生後3か月程度の途中から子育てに合流することになる頼りないパートナーの実力を少しでも底上げしようということらしい。

 このようなセミナーに一人で行く勇気のあるパパはまだまだ少ないのだろう、夫婦同伴ではあるが父親主体の「プレパパセミナー」に行くことになった。この「プレパパ」という単語すら、昭和生まれの僕にとっては、とても恥ずかしいものなのだが、この時期の嫁さんの機嫌を損ねるほど馬鹿でないので、「俺もそういうの探してたんだよ!」と顔に書いて返事をした。もちろん、予約は嫁さんに合わせ、金曜日夕方、会場へと向かった。

 今回のセミナーはNHKのテレビ小説「べっぴんさん」のモデルにもなった、皇室ご用達(wikiによると)の子供服メーカが提供しているもので、無料。場所は代官山の駅を出て1~2分歩いたところの通りに面した2階という、その道すがらの1~2分だけで一クラス分のお洒落に敏感な人とすれ違えそうな、場所である。。おいおい、こんな高そうな店で装備を揃える稼ぎはねぇぜ、、と心の中で聞こえる声はとりあえず無視しつつ、店に入った。

 プレパパセミナーの参加者と思わしき6,7組のカップルが店内をなにをするでもなく、漂っている。関西出身の血が騒ぐ僕は、赤ちゃん人形の表情をひとしきりいじり倒していたが、嫁さんに、セミナー中そんなことはしたらしばく、とお約束のように強くクギを刺された。ほかのカップルに目をやると、お洒落な金持ちカップルだらけではなく、意外と普通の人たちだった。しかし、十人十色とはよく言ったもので、それぞれの夫婦のパワーバランスやファッションセンスなどバラバラだった。セミナは2組に分けられ、僕は我々夫婦に加えて、アメフト出身風のスリーピーススーツを着た旦那とギャル風の嫁(アメギャルカップル)と顔はハーフ系でイケメンなのにひょろっと正直ダサい上着を着た旦那とヤンママ風の嫁(ハーフヤンキーカップル)という面子。プレセミナーはもろもろの都合上プレパパ沐浴体験からはじまった。やはりプレパパという響きはどうも落ち着かない。

 沐浴に関しての説明を店員の女性から受けるのだが、案の定の奥様方の落ち着きに比べて、プレパパたちの恥ずかしい感がすごい、特にハーフは「来たくなかった感」を全身から出して、スマホゲームをしている。おそらく若いのだろう、そういった態度に覚えがないわけではないが、幾重にも積み上げたクンフー(失敗ともいう)の結果、そういう態度が傍から見ると逆に恥ずかしいということを心から理解している。アメフトはおそらく僕と同じぐらいの年齢か。社会人としての正しい姿勢で、話を聞いていた。

 そもそも、沐浴というのは修行僧にガンジス川でのみ許される行為だと思っていたのだが、どうやら生まれたばかりの子供は頭も腰もグニャグニャで、ハービバノンノ的入浴ではなく親がとても優しくお湯をかけて体を洗わないといけないらしい。この軟体のお陰で、狭い産道を抜けることができるということか。面白い。

 いざ沐浴体験。しかし、、、この頭が後ろにガクンといかないように、常に保ちながら全身を洗うというのが結構むずい、、、。もし、ミスってガクンとなっても何回までならセーフなのかというバカな考えを口に出さないように、真剣に取り組む。しかし、首ガクンだけを注意していると人形の足があらぬ方向に曲がり押しつぶされたりしてしまう。なおかつ、この沐浴、頭だけでなく、腰ガクンも気を付けなければならぬ、肌が柔らかいためにきつく拭いてはならぬ、などなど禁止事項と注意事項のオンパレードなのである。沐浴おそるべし。。

 沐浴の後は母親の一日というような流れで、都度必要になるベビー用品を説明していただき、僕が趣味に使った金額なんて可愛いもんだったなぁと感慨深く子供の出産が迫ることを実感した。

 締めくくりとして用意されていたのが妊婦体験。もしお腹に子供がいたらこんなに辛いんだよということを世の父親に思い知らしめるために科学の粋を用いて作られたベストを着用する。それぞれのプレパパが順番に体験するのだが、名誉ある一番に指名された。ベストをつけるとわが子の重さがぐっと肩にのしかかる。そして、プレパパ、プレママたちに無言でみられるという恥ずかしさが心に押し寄せる。もちろん足から崩れるわけでもないし、いきなりよろけるわけでもない。しかし、しっかりと重く、動きづらさや腰の曲げにくさなどが実感できる。僕は少しだけ大げさに、おおっ、っとリアクションをしてその辛さを実感したことをプレママたちにアピールした。クンフーの成果である。アメフトも同じように、「いやぁ大変ですね。」と無難なコメントをしていた。かなりの使い手と見える。さぁ、ハーフの出番である。装備するなり、颯爽と立ち上がり、「意外に余裕っすね!これ出産前にジムとかでちゃんと鍛えてたらいいと思います!」と、謎の強い男アピールを始めた。さっきまで隙を見ればスマホをいじり、全身からだるさを醸し出していたあの男が、意味不明にも嬉々とした表情をしている。まったく、期待に応えてくれる男だぜ。あのハーフの1.5倍の体格を持つアメフトでさえ、謙虚な姿勢を見せるこの場で、お前がそれを言うか。ほうら、見なさい周りのプレママの目を。。

 

 

 そういえば、沐浴って何歳まで必要になるんだろう、、、?

 「大体1か月から2か月ぐらいですかね(by店員)」 

 

 ん?おれほぼ出番ないやん。

 

おわり